株式会社 筆跡印影指紋柳田研究所TEL:0285-74-0545
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さむらい刀剣博物館1階

事件の鑑定

当社が今まで鑑定を行った、主な事件のご紹介をしていきます。

狭山事件(筆跡鑑定・画像解析)

ごく普通に生活をしていたあなたが、ある日突然獄中生活を送ることになったらどうしますか。
えん罪をはらすために行った鑑定、それが齋藤第三・柳田鑑定です。

狭山事件再審弁護団は平成13年4月25日『齋藤第三・柳田鑑定書』を東京高裁第五刑事部に提出しました。
この鑑定書における脅迫状と封筒の抹消文字及び
掻き消し文字の解析・鑑定を当研究所の鑑定人柳田律夫が行いました。

狭山事件とは
1963年5月1日、埼玉県狭山市で女子高校生が学校帰りに行方不明になり、身代金を要求する脅迫状が届けられる 5月3日、埼玉県警は40人の警官を張り込ませたが、身代金を取りにきた犯人を逮捕できず 5月4日、女子高生の遺体発見 5月23日、石川一雄さん(当時24歳)別件で逮捕 6月17日、釈放後すぐに再逮捕 6月23日、単独犯行自白開始 7月9日、自供したことと、脅迫状の筆跡が一致するとして起訴される 1964年3月11日、浦和地裁での第一審で死刑判決 1974年10月31日、東京高裁での第2審で無期懲役判決 石川さんは、無実を主張し最高裁へ上告 1977年8月9日、上告棄却決定、無期懲役が確定 ただちに再審請求を申し立てたが、まったく事実調べもなく棄却 狭山事件弁護団は 1986年8月21日、東京高裁に第二次再審査請求 1999年7月9日、東京高裁は事実調べも行わないまま、第二次審査請求棄却決定 1999年7月12日、東京高裁に異議申し立て 石川さんの無実を証明するたくさんの新証拠を裁判所に提出している その新証拠の重要な一つとして齋藤第三・柳田鑑定書が提出された 石川さんは、31年7ヶ月もの獄中生活を送り 1994年12月21日、仮出獄 いまも無実を叫びつづけ、再審を訴えている
封筒・脅迫状に関する石川さんの自白内容の一部
●脅迫状について
「書いたものはボールペンでしたが、これは兄ちゃんの物で・・・」 「兄ちゃんがいつも寝る四畳半の部屋の兄ちゃんの行李の中に入っている手箱の中にあった鉛筆の形をしたボールペンを使いました。その時ボールペンは2,3本あり、青い字を書くボールペンでした。」
●封筒について
封筒の表を少時様と書いてあったものを中田江作と書き直したと思います。」 「封筒や手紙を書き直したボールペンは前にも言ったように兄ちゃんのもので、上を押すとペンが出てくる式のものです。色は青だったと思います。」
脅迫状と封筒の抹消文字と掻き消し文字の解析・鑑定について 東京高裁に提出した鑑定書の概要は以下の通りです。
●封筒の抹消文字について 封筒表側の状況        
写真1は今回の鑑定のために2001年3月27日に東京高等裁判所にて撮影したものです。 長年の日本刀の鑑定でつちかった技に、最新の科学技術をプラスした鑑定法 「少」・「時」それぞれの部分を45度ずつ回転させ、8方向から写真撮影し、その画像を重ね合わせてコンピューターを使って解析して、判読しました。 齋藤第二鑑定で封筒の「少時」の背景に多数の筆圧痕があることは指摘されていましたが、今回の鑑定では重要な新証拠の文字とそれ以上の筆圧痕を発見しました。 
封筒表側の状況
 写真 1          
写真2 「少」周辺の筆圧痕出現状況 黒実線・・・「少」の痕跡 赤点線・・・筆圧痕(総数31本) 赤実線・・・現れた文字 筆圧痕の判読 筆圧痕より文字を読み取ったところ、赤実線で示すとおり数字の『2』が現れてきました。 この『2』については、他の筆圧痕が介在していないので一連の筆運の中で構成された数字の形態です。筆速、筆勢、上下のバランスをみても自然な流れになっていて、数字であることは明白です。 
「少」周辺の筆圧痕出現状況
写真 2
写真3 「時」周辺の筆圧痕出現状況
黒実線・・・ 「時」の痕跡
青実線・・・ 訂正線の痕跡
赤点線・・・ 筆圧痕(総数62本)
赤実線・・・ 文字線
ア→・・・・・ 入筆直後下方へくぼむ箇所
イ→・・・・・ 中高右下がりの箇所
ウ→・・・・・ 中低右下がりの箇所
「時」周辺の筆圧痕出現状況
写真 3
筆圧痕の判読
筆圧痕より文字を読み取ったところ、赤実線で示すとおり『女』及び『死』の文字が現れてきました。 出現文字の決定にあたっては、筆跡鑑定の観点から文字の偏や旁などの字画構成をとらえて判定しました。具体的には、字画の交差位置や交差角度、接合位置や接合角度、傾斜、屈折、間隔などを総合的に判読しました。 @ 『女』について 第1画は、「く」の字にならずに左湾状を描いています。第3画は、入筆から入ってすぐにア→のところで下方にくぼんでいます(黒点線マル)。これを”アタリ”と言います。次に、イ→の付近で中高となり、すぐに右下がりになっています。 これらは筆跡からみた字画線の顕著な特徴です。また、筆圧が高く、ゆっくり書いています。 A 『死』について 左側の偏ははっきりと現れていて顕著ですが、右側の旁は筆圧痕が若干薄くはなっていますが、旁の形態が現れています。第1画がウ→のところで若干ですが中低となり、すぐに右下がりとなっています。 これらは、筆跡からみた顕著な特徴です。
「時」周辺の筆圧痕の2条線出現状況 写真4の2条線を赤点線(1?9)でなぞった
「時」周辺の筆圧痕の2条線出現状況 写真4の2条線を赤点線でなぞった
写真 4 写真 5
2条線と筆記用具について
写真5の赤点線部分と写真4を比較してみると、2条線痕がおわかりいただけると思います。この2条線痕が現れる筆記用具は、ペン先が割れる万年筆又はインク付けペンです。 筆圧痕全体の筆記用具について考察してみると、他の筆圧痕も同じ残存形態で混在しているところから判断して、すべて万年筆又はインク付けペンのよって書かれたものと類推するのが順当であると思います。
●脅迫状の掻き消し痕跡について
脅迫状上半分の状況
写真6は写真1同様に今回の鑑定のために2001年3月27日に東京高等裁判所にて撮影したものです。 脅迫状の一番上のところは、「少時」と書いて掻き消された部分(→)があります。指紋検出後の写真を見ると、「少時」のインクは指紋検出に用いられたアセ トン溶液に溶解していて、ボールペンで書かれていることがわかります。一方、掻き消した線は溶解せず、色合いも「少時」文字と違っています。 矢印→の掻き消し痕の部分を90度ずつ回転させ、4方向から写真撮影をし、その画像を重ね合わせてコンピューターを使って解析して、判読しました。
脅迫状上半分の状況
写真 6
掻き消し痕跡調整写真
写真 7
写真7 掻き消し痕跡調整写真
赤実線・・・現れた文字  重ね合わせた写真から、「少時」文字のボールペンインクが溶けた部分を除去し、さらに、掻き消し線だけを除きました。削除部分の判断としては、筆跡鑑定の 観点から文字の偏や旁などの字画構成線以外の運筆をはじめ、字画の交差位置や交差角度、傾斜、屈折、間隔などを見極め、削除しました。 その結果、『女』、『林』、『供』、『八』、『二』の文字が出現しました。これは重要な新証拠です。
どうして写真6の「少時」の部分が写真7のようになるのか不思議に思われるかたもいるでしょう。 鑑定人柳田律夫は工学博士であるとともに、本業の刀剣製作に関連した刀剣鑑定及び筆跡鑑定などを36年間行ってきました。専門的知識に裏付けられた読解力 によって、錆びて判読不明となった刀剣の銘や年号をコンピューターを使って解析し、判読してきた実績があるからです。
掻き消し痕跡2条線の状況 写真8の2条線を赤点線(1?7)でなぞった
写真 8 写真 9
写真9の赤点線部分と写真8を比較してみると、2条線がおわかりいただけると思います。写真8を見ると2条線と掻き消し痕の色合いは全く同じです。 つまり、掻き消し痕によって消された文字群は、万年筆又はインク付けペンによって書かれたものと類推するのが順当だと思われます。 封筒に記載された「少時」は万年筆または付けペンで書かれたものです。 脅迫状の掻き消した線も万年筆または付けペンで書かれたものです。 ここでもう一度、石川さんの自白を思い出してください。脅迫状や封筒に用いた筆記用具はボールペンです。 これは何を意味するのか・・・
●封筒及び脅迫状の出現文字「女」についての比較
  封筒の「女」                   脅迫状の「女」
双方とも第1画が「く」にならずに左湾状に書かれています。また、第3画は、入ってすぐに下方にくぼむ”アタリ”があり、直後中高となり、右下がりになっています。 書体は双方とも第1画、第2画が、参考1に示すとおり草書体の第1画、第2画と字画形態が極めて類似しています。 封筒及び脅迫状の「女」は草書体でかかれ、しかも文字の筆跡的特徴が極めて似ています。 封筒及び脅迫状の「女」の書体比較
明朝体   ゴシック体   楷書体    行書体   草書体
参考 1
●脅迫状の出現文字「林」につて
「林」の木偏拡大図      脅迫状掻き消し部分の「林」
参考2に示すとおり木偏は行書体に極めて類似しています。 木偏の第2画と第3画から第4画に運ぶとき、参考2の青丸に示すとおり三角州を形成しています。これは行書体の顕著な特徴です。 脅迫状の「林」は、行書体で書かれています。
林の書体分析
明朝体   ゴシック体  楷書体    行書体    草書体
参考 2

事件当時、石川さんは文字と無縁であったのです。
判読された「女」がいずれも草書体であり、「林」が行書体で書かれています。
これは何を意味するか・・・

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